「せっかく若手を採用しても、数年で辞めていってしまう」
「20代後半から30代、40代にかけての中堅層が薄く、若手とベテランの間が抜けている」
「次の世代を担う管理職がなかなか育たない」
企業の経営層や人事、現場のマネージャーの皆さまとお話しするなかで、こうした「若手・中堅社員の離職」にまつわるお悩みは本当に本当によくお聞きします。
こうした現状を前に、「最近の若者は忍耐力がないから、すぐに辞めてしまうんだ」「今の世代は転職への抵抗がないから仕方がない」と、あきらめ半分の“世代論”で片づけてしまってはいないでしょうか。しかし、本当にそれだけでこの深刻な現象を説明できるのでしょうか。
実は、世の中のマクロな統計データを紐解き、働く人々の心理を丁寧に分析していくと、私たちの「思い込み」とは異なる真実と、企業側が取り組むべき明確なアプローチが見えてきます。
今回は、2026年8月に開催された「MeCoFaラボ」のミニセミナーの内容から、若手・中堅社員が離職する本当の背景と、自社の定着率を高めるための「3つのステップ」を解説します。
「最近の若者はやめやすい」という誤解と、データが示す3年以内の「定着の壁」
まず最初に考えてみたいのが、「最近になって急に、若手や中堅社員が辞めやすくなったのだろうか?」という問いです。
「昔に比べて、今の若い子はすぐに会社を辞めてしまう」というイメージを持たれがちですが、客観的なデータを調べてみると、実は少し異なる現実が見えてきます。10年以上前(2013年)と2024年の統計データを比較してみても、25歳〜29歳、あるいは30代といった年代の「転職入職率(新しく入ってくる人の割合)」や「転職による離職率」は、マクロに見ると大きくは変わっていません。

つまり、「最近の若者が急に我慢弱くなった」とか「急に離職が増えた」というわけではない、というのがデータ上の事実なんです。
一方で、もう一つ、私たちが直視しなければならないデータがあります。それが「大卒社員が中堅になる前にどれくらい残っているか」という、3年以内の離職率データです。
2022年3月に大学を卒業して就職した人たちの、2025年までの3年間の動きを追った統計情報を見ると、全体平均で 33.8%、つまり「約3人に1人」は中堅社員になる前(入社3年以内)に職場を去っているという事実があります。
この数字自体は、実は昔から「七五三現象」などと言われ、大きく変化していない部分ではあるのですが、注目すべきは「事業所の規模によるばらつき」です。
規模が大きくなれば離職率は低くなる傾向にありますが、これが5人未満の小規模な事業所になると、3年以内の離職率は 57.5% にまで跳ね上がります。半分以上の人が、3年経たずにいなくなってしまうわけです。
このように、若手が中堅に育つ前に抜けていってしまう構造は、今に始まったことではなく、昔から日本の職場が抱え続けている「定着の壁」なのだと言えます。

中堅社員にとって「外に出る」ことが現実的な選択肢になった背景
若手社員が「中堅になる前に辞めてしまう」一方で、すでに経験や専門性を身につけたはずの「中堅社員」の離職も、企業にとっては頭の痛い問題ですよね。
中堅社員の離職について考える際、無視できないのが「外に出る(転職する)」という選択肢が、彼らにとって非常に現実的で、かつ魅力的なものになっているという現状です。
それを裏付けるのが、2024年の「転職後に賃金が増えた人の割合」というデータです。転職した人のうち、実に 約45% の人が、新しい会社に移ることで賃金が上がっているという事実があります。ほぼ半分近くの人が、転職によって処遇をアップさせているわけです。

このデータは、働く人たちのキャリア観に大きな影響を与えています。
これまでは「今の会社に不満があるから辞める(嫌だから辞める)」というネガティブな理由が多かったかもしれません。しかし、今の時代はそうとは限りません。
「今の会社に大きな不満はないけれど、ここに残るべきか、それとも外に出るべきか」
中堅社員たちは、自分の経験や専門性が他社でどう評価されるかを冷徹に比較検討しています。「外に出た方が、自分のキャリアにとっても、処遇にとってもプラスになる」と判断すれば、迷わず動く。そんな「前向きな選択肢」として転職が位置づけられているのが、現代の現状分析における重要なポイントです。
若手と中堅で分けるべき、定着を考えるための「異なる問い」
ここまで見てきたように、若手と中堅では、置かれている状況もキャリアに対する視点も大きく異なります。だからこそ、離職を防ぎ、定着を促すためのアプローチも、若手と中堅で明確に「問い」を分ける必要があると私たちは考えています。
厚生労働省が公表している「年代別の離職理由」のデータを紐解いてみましょう。ここには、彼らの本音が垣間見える興味深い違いがあります。
まず 20代後半(若手) の離職理由を見てみると、男性では「給料・収入面」がトップに来ることが多いですが、女性では「労働時間や休日などの働き方」、そして「人間関係の悩み」が上位を占めています。
これに対して 30代以降(中堅) になると、若手と同様の働き方や人間関係の悩みに加え、特に男性の間で 「会社の将来性」 という理由がぐっと上位に浮上してくるようになります。

このデータから、私たちは若手と中堅の定着に向けて、それぞれ以下のような「異なる問い」を立てて向き合うべきだという仮説を持っています。
- 若手社員への問い:『ここで本当にやっていけるのか、ここで成長できるのだろうか』
若手は、まだ仕事そのものや職場環境に手探りの状態です。「この仕事は自分に合っているのだろうか(仕事との相性)」「職場のメンバーや上司と良好な関係を築けるだろうか(人間関係)」「自分の望む働き方ができ、成長や処遇の実感を得られるだろうか」といった、目の前の環境への適合や成長の実感を求めて、日々自分に問いかけています。 - 中堅社員への問い:『この会社でこの先も働いていく理由があるのか』
一方で、ある程度仕事ができるようになった中堅は、視座がさらに先へと向いています。「自分はここでどんなキャリアを築いていけるのか(役割と将来)」「会社自体の将来性は大丈夫だろうか」「自分のライフステージに合わせた働き方ができ、相応の権限や裁量が与えられているだろうか」といった、長期的な視点での「ここで働く意味」を問い直しているのです。
この「問い」の違いを理解しないまま、若手にも中堅にも一律の「定着施策」を行っても、なかなか効果は発揮できません。若手には「ここで育ち、残れる環境」を。中堅には「残ることに本人なりの意味や理由がある環境」を。それぞれ個別にデザインしていく必要があるのです。

「やめる理由を減らす」と「残る理由を作る」を両輪で回すために
では、私たちは具体的に何から始めればよいのでしょうか。
定着率を高めるために、ぜひ自社で振り返っていただきたい「3つのステップ(問い)」があります。

【ステップ1】 どこで本当に人が抜けていっているのか?
「若手が辞めていく」と一口に言っても、実は会社によって実態はバラバラです。入社1年目、2年目の本当に早い段階なのか、それとも中堅に差し掛かる3年目〜5年目なのか。まずは自社の過去のデータをしっかりと整理し、どのステップ、何年目のどの世代で一番人が抜けているのかという「事実」を正確に把握することが、すべてのスタートラインです。
【ステップ2】 何が「残る理由」になっているのか?
私たちはついつい、退職者が出ると「何が不満だったのか」「なぜ辞めたのか」という「やめる理由」ばかりに目を向けがちです。もちろん、労働時間や人間関係などの不満(衛生要因)を減らす努力は大切です。
しかし、それと同時に「今、残ってくれている人たちが、なぜこの会社に居続けてくれているのか」という「残る理由」にも目を向ける必要があります。それは日々のやりがいのある仕事なのか、仲間との関係性なのか、あるいは成長の実感なのか。残っている人が感じているポジティブな動機(動機付け要因)を言語化してみましょう。
【ステップ3】 その条件が「日々の仕事」の中でちゃんと作れているか?
残る理由や魅力が分かったとしても、それが一過性のイベントや社長の訓話の時だけ感じられるものであっては意味がありません。忙しい日々の業務、上司との毎日のコミュニケーション、配属された現場の雰囲気の中に、その「残るための条件」が溶け込んでいるでしょうか。日々の業務そのものの中で、社員が「ここにとどまりたい」と感じられる環境を、管理する側が意図して作り出せているか。そこを問い直す必要があります。
定着支援、つまりリテンションマネジメントというのは、ただ「やめる理由をなくす(不満をゼロにする)」ことではありません。それと同時に、「ここに残る理由をちゃんと作る(満足度を高める)」 というアプローチが合わさって、初めて効果を発揮するものです。
この「やめる理由を減らす」と「残る理由を作る」は、まさに組織を支える両輪です。
まずは自社のどこで人が抜けているのかというデータを精査し、今残っている社員の声に耳を傾けることから、一歩を踏み出してみませんか。
